はてなの近藤が任天堂東京オフィスにお邪魔し、うごメモはてなプロデューサーの小泉さんと語らいました。

うごメモはてな開発秘話〜プロデューサー編〜

近藤淳也(株式会社はてな 代表取締役)
1975年三重県生まれ。京都大学大学院理学研究科中退後、プロカメラマンを経て、2001年7月に京都で「有限会社はてな」を創業。2004年に株式会社化、東京移転。2006年に米国シリコンバレーにて子会社「Hatena Inc.」を設立し活動。2008年に帰国し、本社を東京から京都へ移転して「ものづくり」の本拠地とする。

小泉歓晃(任天堂株式会社 プロデューサー)
1968年静岡県生まれ。大阪芸術大学芸術学部卒業後、1991年任天堂株式会社に入社。「ゼルダの伝説 時のオカリナ」や「スーパーマリオギャラクシー」など、ゼルダの伝説シリーズ、マリオシリーズのディレクションを担当。2003年より東京制作部へ。現在は東京を拠点に開発を行っている。

社長が訊く『ニンテンドーDSi』うごくメモ帳編では、うごくメモ帳について任天堂岩田社長とお話していますが、こちらでは実際の開発を行ったプロデューサーどうしでさらに掘り下げて、うごくメモ帳、うごメモはてなについて語っています。

第1章:ゲームとインターネット

近藤 今日はうごくメモ帳の開発でご一緒させて頂いた小泉さんと、開発や仕事の話などができればと思います。よろしくお願いします。

小泉 よろしくお願いします。

近藤 まずは自己紹介をお願いします。 小泉さんは「うごくメモ帳」のプロデューサー、でいいんですよね?

小泉 肩書きがわからないんですけどね(笑)

近藤 ディレクター兼プロデューサーですか?

小泉 ゲームディレクターの仕事を10年以上やっていて、今回も仕様をきったりしてディレクターの仕事もしたんですけどね(笑)立ち回り方は、あんまり変わらないですけど、肩書きは一応プロデューサーです。今回は、清水英明君(※うごくメモ帳のプログラマ)のやりたいことを抽出することにも力を向けたので、プロデューサー寄りの仕事をしたと思います。任天堂の京都本社に、情報開発本部というソフト開発の専門部隊があるんですけど、僕はそこで10年以上、宮本(茂 専務取締役)と一緒にマリオやゼルダシリーズなどをつくり続けてきました。2003年に、東京にいる優秀な人達と一緒に仕事をできる場として、東京制作部という開発部署を作りまして、そこで商品の企画開発を担当しています。

近藤 ありがとうございます。 僕ははてなで代表をやっている近藤です。つい最近まではてなハイクなどのプログラムを書いてサービスを作ったりしていましたが、今回のうごくメモ帳ではプロデューサー的な役割を行いました。 小泉さんはこれまでどういう作品を手がけられてきたのですか?

小泉 僕はゲームタイトルを主に手がけていて、最近では「ドンキーコングジャングルビート」というアクションゲームと、去年は「スーパーマリオギャラクシー」という3Dアクションゲームをやっていました。なぜかわかりませんが、ずっとアクションゲームですね。

近藤 ちなみにスーパーマリオギャラクシーはお会いする前から楽しくプレイさせて頂いていました。

小泉 ありがとうございます。「スーパーマリオギャラクシー」のような3Dのアクションゲームをはじめたのは「スーパーマリオ64」というゲームからでした。僕が本格的にゲーム開発に入ったのもそこからでして、ゲームというよりも、こんな箱庭をつくりたいなあと、宮本と二人でわいわい言いながら作ってきました。

近藤 箱庭って何ですか?

小泉 3Dで空間を構築して、ここでキャラクターがうごきまわるとか、ここは山があって上からすべっておちるようにしようとか、ジャンプして水しぶきがあがるよねとか、そういう環境ですね。

近藤 そういう世界をつくるようなことが元々の役割だったと。

小泉 はい。プレイヤーシステムというか、大きな枠があってその枠を遊び場にしたいという。その遊び場の中で、こんなルールで遊ばせたい、というように後から組み込んでいたりするので、従来のゲームとは違う作り方をしてきたのかもしれません。

近藤 なるほど。
僕が一番面白いなと思ったのは、昔遊んだスーパーマリオでは右に行くしかなかったのが、スーパーマリオギャラクシーなどの3D空間では違う点ですね。どの方向にでも行けるのでどこへいこうが勝手で、そういう自由さがいいなと思いました。

小泉 僕もステージ上でどう動いてもいいんじゃないのって思う方なのでそうしてきたんですが、そう思ってその場を楽しんで頂ける人っていうのは、クリエイティビティが大きい人が多いような気がするんです。メインルートよりも裏ルートにいきたいって思うタイプの人とか。

近藤 なるほど(笑) そこからうごくメモ帳の話につなげますけど、インターネットも、そうじゃないですか。 どこをクリックしようが勝手なんですよね。かなり能動性が求められると思うんですけど、ある程度自発的に参加しないと楽しめない。インターネットに本格的に踏み出したのはそういう趣向と関係ありますか?

小泉 いや、むちゃくちゃ関係ありますよ。僕、正直インターネット上の人々の動きが悔しくてしょうがなくて。本当は、僕も規定のルールだけで遊んでほしいわけじゃなくて、みんなでルールをつくって遊べる環境をつくりたい方なんです。よく例えで言うのは、土管のある空き地があって、その土管を、お城に見立てるのか、隠れ家に見立てるのか、お店に見立てるのか。昔は自分で想像してコッゴ遊びをしたわけじゃないですか。ああいう箱庭の空間を昔からつくりたいと思っていたのですが、インターネットって、物理的な空間の広がりはないのに人が集まってくるところがすごく魅力的で、みんなが自分たちでルールを考えて遊んでいる。これはもう僕がしたいことができちゃっているなって。

近藤 なるほどなるほど。

小泉 僕は「うごメモ」はゲームだと思っていて、うごくメモ帳は自分で「ゲーム」をつくるためのツールだと。シャベルなのか、紙飛行機をつくるための紙なのか、いろいろな素材感のあるおもちゃですよね。これを持ってみんなが空き地に集まったら何をするんだろうなあ、と考えていて、これは、まずコミュニティを作らないと面白さが広がらないだろう思って、今回はてなさんと引き合わせていただきました。

近藤 じゃあ、かなり初期からこれはインターネットに繋げていくぞっていうのが前提としてあったんですか。

小泉 そうです。インターネットでゲームというと、だれかとだれかが会って一緒に冒険しましょうとか、同時にチャットしましょうとか、いわゆるリアルタイムで接続する同期型が一般的ですよね。例えば、僕は深夜に帰りますから、深夜に接続できる友達が「友達」になるわけです。ところが、昼間に活動する友達もいるわけで、時間帯を共有できる人が少なくなってしまうと、せっかく繋ぐ環境があっても「一緒に遊べない」と感じてしまう。そういった、しかたなくすれ違ってしまう人達がいる中で、非同期型のネットワークの遊びというのがすごく魅力に映ります。例えば、「おいでよ どうぶつの森」というネットに接続することが出来るゲームの中に「あやしいネコ」というキャラがいるんですけど、顔にラクガキができるんですよ。自分がラクガキを描いたネコが、ネット上を放浪して別の顔で戻ってきたりするんです。ネット上のだれかに手渡して、受取った人が手を加えて、再放流する仕組みが魅了的で、僕らがやるべき所はそこじゃないかな、と英明君と話していたんですよ。

近藤 じゃあ結構、インターネットの仕組みを使った遊びには興味を持たれていた状況があったのですね。

小泉 僕だけじゃないと思いますよ。宮本も含め任天堂の中でも、人と人が面白そうなことをするのに、手段の垣根をつくりたくないと考えていると思います。ただ、何も考えないでインターネットサービスを行うと不幸な人が出てしまうかもしれないので、沢山沢山考えなければいけないわけです。とてもチャレンジングですが、任天堂の新しいステップの一つだと思っています。

近藤 そういった状況の中から、インターネットにつながるうごくメモ帳が生まれたわけですね。
その辺りの経緯は先日の「社長が訊く(※任天堂株式会社のサイトにある対談記事)で詳しくお話になられていましたので、読者の方にはそちらもぜひご参照いただきたいですね。

近藤 ところで任天堂のディレクターの方って、僕が見ている限りではエンジニア出身の方か、デザイナー出身の方ばかりですし、プロデューサーや取締役の方もエンジニアかデザイナー出身の方が多くて、製品開発の意思決定をするラインが全部ものづくり出身の方ですよね。

小泉 今の体制で言うと、社長の岩田はプログラマ出身で、宮本はデザイナー出身ですし、まあそうかもしれないですね。気がつくとゲーム開発のラインは、つくり手が意思決定するようになってますね。

近藤 それが僕は一緒に仕事をしていて、非常に特徴的だと思ったんですよ。 最後の最後で、ものづくり側の論理で決定できるかどうかが出てくるものに与える影響は計り知れないと思うんですよね。

小泉 最終的にお客様の手に渡ってそれが良いのか悪いのかってことに責任を持たなくてはいけないのは、ものづくりの部分なわけですよね。開発部門は特にその責任を感じていますが、部門に関わらず、社員全員がお客さんの笑顔に繋がることには最大限配慮していますね。「笑顔作り」をしているという意味で言えば全社員「つくり手」なんですよ。笑顔に繋がらない可能性のある、ひとりよがりの部分は、削っていかれることもありますけどね(笑)。

近藤 日本のネットベンチャーの社長一覧みたいなものをこの前雑誌で見たんですけど、そうしたら文系の方ばかりなんですね。アメリカのシリコンバレーの会社とかですとエンジニア出身の方とかいますけれど、日本はネットビジネスやるぞっていうビジネス好きの方が多くて、はてなのようなものづくりをするインターネット企業って珍しいと思っているんですよ。
だけど任天堂さんの組織体制を見ていて、それが製品の面白さにつながっているんじゃないかなと思ったのが、励みになりました。

小泉 よく部内で話されることなんですが、任天堂は商品をつくる会社で、工業製品としてそれが誰かの手に渡るものだから「抽象的なイメージじゃなくて具体的なものに落とせてないとあかんよ」ってよく言われます。商品アイディアは具体性が重要で、イメージで終わらないようにということなんですが、その具体性を具体化するのはプログラマやデザイナーの仕事ですから、具体化する作り手が集まって組織ができてると考えると、そうですかね。はてなさんは全員が作り手さんなので、うちとほんとに一緒だなって思います。

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